AIが9000件の判決を分析、最高裁判事の「お世辞」の傾向が判明
アメリカの最高裁判事って、反対意見を書くときでも「でも、相手の言い分も一理あるよね」と前置きしてから論破に入る人がいるらしい。そんな司法界の「お世辞」の傾向を、AIが9000件以上の判決文を読み込んで可視化した研究が話題だ。
マサチューセッツ大学アマースト校の政治学者ドナルド・スナイダー氏とケイトリン・ピアース氏が開発したのは、判事の「なだめスコア」を測定する機械学習モデル。反対意見や同意意見の中から、多数派の結論には反対しつつも「ここは認める」と譲歩する表現(concession)を拾い出す。
これは高圧洗浄機と同等の強さで、電力不要BlastPro 分析対象は1946年から2011年までの9049件の意見書。AIはLEGAL-BERTという法律文書特化型モデルを使い、まず「裁判所」や「多数派」に言及した6万637のパッセージを抽出。そこから人手で「譲歩あり」「なし」のラベル付けをし、AIに学習させたところ、未見の判決でも98%以上の精度で「お世辞」を検出できたという。
結果はなかなか面白い。まず、イデオロギーの両極端に位置する判事ほど、多数派に一切のクレジットを与えない傾向がハッキリ出た。逆に、中道寄りの判事ほど「お世辞」のスコアが高い。ただし、感情的な言葉遣いの激しさとは無関係で、要するに「極端な人は単に怒っているわけではなく、相手に点を譲るのが嫌なだけ」というわけだ。
特に低スコアだったのが「ワイルド・ビル」の異名を持つウィリアム・O・ダグラス判事。彼は一貫して最低クラスの「なだめスコア」だった。もう一人、ウィリアム・レンキストは、1986年に首席判事に昇格してからスコアが変動し、過去最高を記録することも。研究者は「首席判事として裁判所の正統性を守る責任が影響したのでは」と推測するが、断言は避けている。
具体例として挙がったのが、2022年の人工中絶判決(ドブス対ジャクソン女性健康機構)。ブライヤー、ソトマイヨール、ケーガンの3判事は連名で「多数派の歴史分析は窓飾りだ」と痛烈に非難。ところが、同じく反対したロバーツ首席判事は「多数派の論理は思慮深く徹底している」と持ち上げた上で、「そこまでやる必要はなかった」と意見を述べている。結果は同じ反対でも、アプローチがまるで違う。
また、多数派の勢力が大きく、イデオロギー的に多様なほど、反対意見に「お世辞」が増える傾向も。これは「手強い相手には、まずリスペクトを示す」という心理が働くのかもしれない。
この研究の面白いところは、司法の世界だけの話じゃないこと。2023年のノートルダム大学ローレビューのシンポジウムで、現役のカバノー判事は「負けた側にも読んでもらうことを意識して書いている。『少なくとも、こちらの主張は公平に扱ってくれた』と思ってもらいたい」と語っている。
もちろん、この「お世辞スコア」が高いからといって、人間関係が良好なのか、裁判所の信頼性が高まるのかは別問題。ただ、反論の前に「まず褒める」という行動パターンが、数字として見えたのは確かだ。
ちなみに、研究のデータは2011年までなので、最近の判事たちのスコアはまだ不明。もしトランプ政権下で指名された保守派判事たちが、どんな「お世辞」を飛ばしているのか、続報が待たれるところだ。
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