バイアグラに抗がん効果?コレステロールを細胞内に閉じ込めて転移を抑制、4万人のデータで死亡率31%低下
「バイアグラ」と聞けば、多くの人が「あの薬」を思い浮かべるだろう。しかし、どうやらこの青い小さな錠剤には、別の顔があったらしい。
イスラエルのワイツマン科学研究所の研究チームが発表した論文によると、バイアグラの有効成分であるシルデナフィルには、がん細胞のコレステロール供給を断ち、転移を防ぐ効果があるという。研究結果は『Cancer Research』に掲載された。
デニムに合う。履くだけで「ちょいワル」Tapoon 仕組みはこうだ。シルデナフィルはPDE5aという酵素をブロックする。この酵素はcGMPという分子を分解する役割を持つが、シルデナフィルがそれを阻害するとcGMPが細胞内に溜まる。このcGMPが、がん細胞の中で「NPC1」というタンパク質に結合。NPC1は通常、リソソーム(細胞内のゴミ処理・リサイクル施設)からコレステロールを運び出す「運搬トラック」のような役割をしているのだが、cGMPがくっつくとその動きがジャムってしまう。結果、コレステロールはリソソーム内に閉じ込められ、がん細胞が使えるコレステロールが不足。がん細胞は慌てて自力でコレステロールを作ろうとするが、それだけでは足りず、細胞膜は弱くなり、ミトコンドリア(発電所)も機能低下。細胞は移動や浸潤、転移が困難になる。
動物実験では、雌マウスを使った乳がん、肺がん、大腸がんの3種類のがんモデルすべてで、シルデナフィルが肺への転移を抑制した。特に乳がんモデルでは、腫瘍そのものの大きさにはほとんど影響を与えなかったものの、肺に転移したコロニーの数は劇的に減少。さらに、別の関連薬バルデナフィルでも同様の結果が得られ、PDE5a遺伝子を直接停止させても転移が減ったことから、この酵素が鍵であることが確認された。免疫系が著しく弱ったマウスでも効果は見られ、シルデナフィルが直接がん細胞に作用していることを示唆している。
そして、人間のデータもこれを裏付ける。イスラエルの医療保険機関「クラリット・ヘルス・サービス」の約500万人分のデータベースから、がん患者4万人以上の男性の健康記録を分析。診断前6ヶ月以内にシルデナフィルを3回以上処方され、かつコレステロール低下薬スタチンも併用していた患者は、どちらも使っていない患者に比べ、5年以内の死亡リスクが31%低かった。この数字は、収入、体重、健康状態、がんの種類などを調整した上で算出されたもの。さらに、無関係の薬パパベリンでは同様の効果は見られず、この効果がシルデナフィル特有であることを補強している。
スタチンは体内のコレステロール生成を抑制する。つまり、シルデナフィルで「リサイクルルート」を塞ぎ、スタチンで「新規生産ルート」を断つ——この組み合わせは理にかなっている。実験室レベルでも、両薬剤の併用はどちらか単独よりもがん細胞の移動やコロニー形成を抑え、アポトーシス(細胞死)を促進した。しかも、正常な細胞にはほとんど影響がなかったという。
ただし、この研究には限界もある。データベースには診断時のがんステージが含まれておらず、医療システム外でシルデナフィルを入手した患者はカウントされていない。あくまで観察研究であり、因果関係を確定するには臨床試験が必要だ。とはいえ、何十年もの安全性データが蓄積された既存薬が、がん治療の新たな選択肢になる可能性を示した点は興味深い。
「使える治療法は、誰も探そうとしなかった場所に転がっていることもある」——研究チームのこの一言が、すべてを物語っている。
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