35歳男性の心臓外来が発端、遺伝子検査で3世代のがんリスクが判明した家族の20年
2005年、35歳の男性が心臓の診察を受けた時、まさか自分の首に甲状腺がんの種が潜んでいるとは思ってもみなかった。担当の循環器医が首に違和感を覚え、エコー検査をオーダー。その1枚の画像が、やがて家族3世代にわたる遺伝性がんリスクを白日のもとにさらすことになる。
手術で摘出した組織を調べると、一般的な乳頭がんではなく、甲状腺髄様がんという珍しいタイプだった。しかも両側の甲状腺に多発し、血液中のカルシトニン値は基準値の9.8pg/mLに対して1160pg/mLと異常高値。すぐに甲状腺全摘とリンパ節郭清が行われ、摘出した19個のリンパ節には転移はなかった。
デニムに合う。履くだけで「ちょいワル」Tapoon ところが、そこからがこの一家の運命を分けた。遺伝子検査の結果、男性はRET遺伝子のコドン609に変異を持っていることが判明。これは多発性内分泌腫瘍症2A型という遺伝性症候群と関連する変異で、彼個人のがんの問題が、一気に家族全体のリスクに拡大した瞬間だった。
遺伝カウンセラーによるカスケード検査(血縁者への段階的検査)で、彼の兄、息子、娘にも同じ変異が見つかった。ここから先が残酷なまでに対照的だ。
兄は37歳になって初めて検査を受け、すでに転移が進行。術前のカルシトニン値は2450pg/mL。甲状腺全摘と両側頸部郭清後も病勢は持続し、現在は分子標的薬セルペルカチニブで治療中だ。
一方、遺伝子検査でキャリアと判明した息子と娘は、それぞれ6歳と3歳で予防的な甲状腺摘出を受けた。2人は現在25歳と22歳。術後一度もカルシトニンが検出されたことはなく、無病状態を維持している。報告書に綴られた患者の言葉には「子どもがキャリアだと知った時は打ちのめされたが、検査がくれた明確さが恐怖を方向性とコントロールに変えてくれた」とある。
肝心の本人はというと、初回手術後3年間はカルシトニンが検出されない状態が続いたが、2008年から再上昇。2013年には肝臓に多発転移が確認された。ただ不思議なことに、この患者のがんは転移しても進行が極めて遅い。カルシトニンの倍加時間は初期の約13カ月から、肝転移発見時には24カ月超、その後は60カ月を超えるペースまで延びた。症状もないため、医療チームは経過観察を選択。2025年に新たな骨転移が見つかったが、まだ痛みも脊髄圧迫もなく、ビスホスホネート製剤で骨を守りながら監視を続けている。
治療面でも進歩があった。かつては高血圧や重度の下痢、疲労感などの副作用が問題だった多標的薬に代わり、RETタンパクだけを狙い撃つ選択的RET阻害薬が登場。臨床試験では69〜79%という高い奏効率を示し、副作用も大幅に軽減された。遺伝性かどうかに関係なく効く点も大きい。
著者らは「分子検査が、運や地域や経済状況で左右されるべきではない」と患者の声を紹介。実際、ドイツでは遺伝子スクリーニング導入後に診断時平均年齢が35.6歳から23.0歳に低下。ノルウェーでは寛解率が50%から89%に跳ね上がったデータもある。たった1回の遺伝子検査が、次の世代に発症前に手を打つ「時間の窓」を開いたのだ。
夜用眼鏡が運転手の間でますます人気になるナイトライダー
今、あなたにオススメ