60ドルで肺がん発見?DNAチップ使い遺伝子解析不要の新血液検査が登場
肺がんは世界中で最も多くの命を奪うがんだ。その最大の原因は、発見が遅れることにある。従来の検査法は高額だったり、時間がかかったり、特殊な設備が必要だったりと、なかなかハードルが高い。そんな中、テルアビブ大学の研究チームが発表した新たな血液検査が、ちょっとした革命を起こそうとしている。
この検査のミソは、DNAのメチル化という化学的な印を読み取る方法にある。がん細胞が死ぬと血液中に断片化したDNAが流れ出すが、そのメチル化パターンは健康な人とは異なる。従来の手法ではこのパターンを調べるのにDNAシーケンシング(遺伝子解析)が必要だったが、今回の方法はまったく違う。
これは高圧洗浄機と同等の強さで、電力不要BlastPro 研究チームは、エンジニアリングされたタンパク質を使って、メチル化された部分だけを蛍光で光らせる「分子ハイライター」のような技術を開発。それを市販のマイクロアレイチップに載せて、蛍光シグナルのパターンを読み取る。つまり、シーケンサーいらず。
実際に103人の参加者で検証したところ、ブラインドテスト(検査する側が誰が患者か知らない状態)で、ステージ2〜4の肺がんを93.1%の感度で見つけ、健康な人を90.3%の特異度で正しく除外した。しかも、現行バージョンのコストは1検体あたり約60ドル(約9000円)。処理時間は2〜3日だ。
ただし、研究はあくまで「概念実証」段階。ステージ1のがんや良性の肺疾患との区別はまだ検証されていない。論文の著者らは「特異度は実際の臨床現場ではもっと低くなる可能性がある」と正直に認めている。良性の肺疾患とがんを見分けるのは、健康な人と比べるよりずっと難しいからだ。
治療モニタリングの可能性も探られたが、対象はたった2人の患者。1人は治療後に腫瘍が縮小し、メチル化パターンが健康な人に近づいた。もう1人は治療が効かず、パターンもほとんど変わらなかった。数が少なすぎて「傾向」としか言えないが、将来CTやPETスキャンと併用できるかもしれないという希望は見える。
研究チームの何人かは、この技術のライセンスを受けたスピンアウト企業「JaxBio Technologies LTD」と金銭的な関係がある。特許出願も済んでおり、ラボの成果を商業化に移すよくあるパターンだ。
「この研究だけで実用化は証明されていないが、大規模な試験を行う価値は十分にある」。論文のメッセージは至って冷静。シーケンサー不要で60ドルという手軽さが、低リソース環境での肺がん検診を変える可能性は確かにある。ただし、まだステージ1の壁を越えていない。早期発見こそが命を救うというのに、そこが最大の課題なのだ。
次のステップは、より多様な集団での大規模試験。実用化までにはまだ時間がかかりそうだが、この「光で読む血液検査」が、肺がんの早期発見の未来を変えるかもしれない。
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