マウス実験で発見!幼少期のストレスが一生続く“分子スイッチ”「SETD7」とは
「子どもの頃のつらい経験が大人になっても尾を引く」――そんな話、よく聞くけど、まさか脳のDNAの“包装”レベルで刻み込まれているとは。
プリンストン大学を中心とする研究チームが、マウスを使った実験で、幼少期のストレスが脳に残す“分子の痕跡”を特定した。論文は学術誌『Neuron』に掲載。
デニムに合う。履くだけで「ちょいワル」Tapoon 研究の核心は、脳の「腹側被蓋野(VTA)」というドーパミンを生成する領域。ここは報酬ややる気、ストレス応答に深く関わっている。過去の研究で、この領域がうつ病や不安症、薬物依存と関連することは知られていたが、なぜ幼少期のストレスが生涯にわたって影響を及ぼすのか、その分子スイッチまではわかっていなかった。
チームは、ごく精密な技術を使って、成体マウスのVTAにある数百もの化学タグを一気に測定。すると、幼少期にストレス(具体的には、発達段階で毎日短時間母親から引き離される体験)を受けたマウスでは、DNAの周りのタンパク質(ヒストン)につく化学タグのパターンが根本から変わっていた。
DNAは細胞内でぐるぐる巻きになってタンパク質に巻き付いており、そのタンパク質につく化学タグが「明るい/暗い」の調光スイッチのように遺伝子の働きを調整している。ストレスを受けたマウスでは、DNAの包装が全体的に「開いた」状態にシフト。つまり、DNAがよりアクセスしやすくなり、遺伝子がオンになりやすい「準備完了モード」になっていた。特に、将来ストレスが来たときに遺伝子を一気に活性化するための「待機マーク」が、成体になっても高いレベルで残り続けていたのだ。
この「待機マーク」を付けているのが、SETD7という酵素。幼少期のストレスでこの酵素の活動が増え、遺伝子を完全にオンにするわけではなく、「次にストレスが来たらすぐ反応できるよ」と準備させるだけ。研究者はこれを「エピジェネティック・プライミング(後成的準備状態)」と呼んでいる。
本当にSETD7が原因なのか? チームは健康な若いマウスのVTAで、人為的にSETD7の活動だけを高めてみた。すると、幼少期にストレスをまったく経験していないのに、大人になって軽いストレスに直面したときの行動が、実際に幼少期に辛い思いをしたマウスとそっくりに。具体的には、他のマウスを避けたり、開けた場所でビクビクしたり、ドーパミンニューロンが過剰に反応した。
SETD7をブーストしたマウスのうち、ストレスに弱い(感受性あり)と分類されたのは約半数。一方、何もしなかったマウスでは12匹に1匹程度だった。ただし、SETD7だけ高めて大人になってからのストレスを与えなければ、行動に変化はなし。この酵素はストレスそのものを引き起こすのではなく、ストレスが来たときに反応を増幅するだけなのだ。
逆の実験もやった。すでに幼少期ストレスを経験したマウスのVTAで、SETD7の活動を抑えたところ、効果は劇的。未処理のマウスでは85%が大人になってからのストレスに弱かったのに対し、処理したグループでは感受性ありが約3分の1に激減。さらに、処理したグループの約3分の1は「ストレスに強い(レジリエント)」と分類され、未処理グループではこのカテゴリーに該当する個体はゼロだった。
人間でも同じメカニズムが働くかはまだ不明だが、何十年にもわたる研究で、子どもの逆境体験が生涯のメンタルヘルス問題の最強の予測因子の一つであることは確立されている。今回の研究は、その背後にある具体的な分子スイッチを動物レベルで突き止めた点で大きい。
研究チームは一つ、興味深い問いも投げかけている。「脳が一般的に反応しやすく準備されているなら、そのプライミングは、ポジティブな経験に対しても敏感にさせるのではないか?」。動物実験では、ある種の初期ストレスが条件によっては回復力を高める可能性も示唆されており、さらなる研究が必要だとしている。
幼少期のストレスは確かに脳に痕跡を残す。でも、この研究が示唆するのは、その痕跡は必ずしも「固定」されているわけではない、ということだ。
冷房ゼロで涼しいミニギアAirio Pro
今、あなたにオススメ