下水から何食べてるかバレる!DNA分析で所得や文化まではっきり
「あなたの食生活、下水が全部バラしてますよ」――そんな冗談みたいな研究が、実際に行われている。
デューク大学とノースカロライナ大学チャペルヒル校の研究チームが開発した「FoodSeq-FLOW」は、家庭から流れ出る下水に含まれる食物のDNAを解析し、その地域全体が何を食べているかをリアルタイムで把握できるツールだ。従来の政府調査は「過去1〜2日に何を食べたか」を数千人にアンケートする方式で、記憶のあいまいさや回答率の低下が課題だった。しかし、この手法なら個人の協力は一切不要。下水処理場で定期的に採取するサンプルを使い、1人あたり1セント(約1円)未満のコストで済むというから驚きだ。
これは高圧洗浄機と同等の強さで、電力不要BlastPro 研究チームは2020〜2021年にかけて、約210万人が住む21のコミュニティから183の下水サンプルを収集。植物の葉緑体に含まれる「trnL」と動物のミトコンドリアにある「12SV5」という2つの遺伝子マーカーを狙い、PCR検査のような要領でDNA断片を増幅・解析した。さらに、同じ期間にダーラム市の住民14人から提供された便サンプルと比較したところ、植物DNAで96種類が一致し、有意な相関が確認された。動物DNAの99%、植物DNAの約75%は、明らかに人間の食べ物として認識される種に一致し、花粉や庭の落ち葉などのノイズは最小限だった。季節パターンも正確で、果物や野菜はノースカロライナの収穫カレンダーと連動し、七面鳥は11〜12月のホリデーシーズンにピークを迎えた。
さらに興味深いのは、下水DNAがその地域の文化的・経済的特徴までも映し出した点だ。
外国生まれの人口やアジア系住民が多い地域では、モヤシ、ヒヨコマメ、マンゴー、ココナッツといった南アジア料理に使われる食材が明確に検出された。これらの食材は高所得層の多い地域とも相関しており、逆にノースカロライナの伝統野菜であるキャベツ類は低所得地域で多く見られた。統計的検定で偶然のばらつきではないことが確認されているが、所得や移民が直接の原因かどうかは証明されていない。
海岸沿いの地域では地元で釣れるドラムフィッシュやスペインサバの痕跡が強く、内陸部では養殖のアトランティックサーモンやティラピアに偏る傾向があった。距離が遠くなるほど全国流通の魚に切り替わるという、まさに「物流が食卓を決める」現実が浮き彫りに。共同著者で海洋科学の教授を務めるレイチェル・T・ノーブル氏は、「地元の水産物をもっと支援し、入手しやすくする余地は確かにある」とコメントしている。
そして最大のサプライズが、所得と特定食材の意外な関係だ。
1人あたりの所得と食費が高いコミュニティでは、ビール原料のホップと大麦、さらにオピオイドの代替として使われる植物由来製品「クラトム」のDNAが顕著に多く検出された。解析の結果、この3つは分析対象となった植物の中で、所得を最も強く予測する因子だったという。一般的には「酒やドラッグは貧困層に多い」というステレオタイプがあるが、下水データはその逆を示している。研究チームは「 discretionary spending(裁量消費)」の可能性を指摘するが、サンプルには近隣のブルワリーからの排水が混ざっている可能性もあり、断定はできないとしている。
「不健康な食事は世界最大の慢性疾患の原因のひとつだが、これまで人々が何を食べているかを迅速かつ客観的に測定する方法がなかった」と、上席著者でデューク・マイクロバイオームセンターのローレンス・A・デビッド氏は語る。「この研究はそのギャップを埋める一助となる」。
ただし、現時点ではあくまで地域全体の平均的な傾向を示すもので、個人の食生活を特定するものではない。DNAの分解速度は温度や酸性度で異なるためバイアスが生じる可能性や、シーケンスの量が正確な摂取量に直結しないという限界もある。また、下水処理区域外の家庭(浄化槽利用など)は対象外だ。
それでも、コロナ禍で整備された下水サーベイランスのインフラをそのまま活用できる点は大きい。あなたの街の下水が、明日どんな「食の秘密」を暴くのか、ちょっと楽しみになってこない?
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