ボーイング737に“悪魔のチップ”を60秒で仕込む方法が判明
コーヒーを淹れるより短い時間で、ボーイング737の飛行コンピュータを乗っ取る——“そんなの映画の話だろ?”と思うかもしれないが、カリフォルニア大学サンディエゴ校とオーバリン大学の研究チームが、実際にその装置を設計・製作し、本物の737のテスト環境で動かしてしまった。
研究チームが作ったのは、手のひらサイズのハードウェア・インプラント。機体下部にある電子機器室(E&Eベイ)の無施錠のハッチを開け、メンテナンス用ソケットに差し込むだけで、なんと約60秒で設置が完了する。このソケットは、飛行管理コンピュータとパイロットが操作する端末をつなぐ通信ラインに直結しており、装置はそこに“割り込む”ことで、飛行ルートや機体重量などのデータを書き換えることができる。
デニムに合う。履くだけで「ちょいワル」Tapoon この攻撃のカギは、1977年から商用航空機で使われ続けているARINC 429という通信規格の“弱点”にある。この規格は信頼性を重視して設計されたが、研究チームは、送信側の電流制限を利用すれば、より強い信号で正規のデータを“かき消せる”ことを発見。さらに、その際に流れる電流を計測することで、元のデータを読み取ることも可能だという。研究者らはこの手法を「バスドライバー攻撃」と名付けている。
実証実験では、実際に元サウスウエスト航空の737から取り外した飛行管理コンピュータと、バタビア航空の737の操縦端末を使い、ボーイングのテスト施設でも再現に成功。飛行ルートに新しいウェイポイントを追加してパイロットの画面から隠したり、離陸速度の計算に使う機体重量データを改ざんしたり、外気温の数値を操作して安全マージンを縮めたりといった、3種類の干渉が可能であることを示した。しかも、パイロットの画面には何の変化も表示されないよう、表示そのものを凍結・改変することもできるという。
さらに恐ろしいのは、このインプラントはソケットの保護キャップの中に完全に収まるサイズで設計されており、電源はソケットから常時供給されるため、バッテリー不要。Wi-Fi機能も内蔵されており、機内のインターネット経由で遠隔操作される可能性も示唆されている(実験では未検証)。
研究チームは、この攻撃が“すぐに現実の脅威になる”とは考えていないと明言する。彼ら自身も日常的に737に搭乗しており、そのリスクを未然に防ぐために公表を決めたという。ボーイングには2020年4月に最初の開示を行い、2023年12月には同社の施設でのテストも実施。ボーイング側は「既存の防御層により、現実世界での攻撃の実現性は大幅に制限される」とコメントしているが、研究チームは、実際の航空機でどの程度対策が進んでいるかは独立して検証できないと指摘する。
実際の旅客機への設置や、飛行中の航空機への干渉は行われておらず、研究はあくまで実験室レベル。しかし、物理的なアクセスさえあれば、たった60秒で“安全”を揺るがす装置を仕込めるという事実は、航空セキュリティの“常識”を問い直すものだ。研究者らは、攻撃者が実際に手を出す前に、このリスクが真剣に議論されることを願っている。
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