超大質量ブラックホールの風、想定の数百倍も強力だった
銀河団の中心で、でっかいブラックホールが想像以上に暴れている。
日本のX線天文衛星「XRISM(クリズム)」がとらえたのは、地球から約37億光年離れた銀河団「H1821+643」の中心にいる超大質量ブラックホールの姿。このブラックホールから吹き出す「風」が、周囲の高温ガスを秒速約300キロメートルという猛烈な勢いでかき混ぜていることがわかった。
デニムに合う。履くだけで「ちょいワル」Tapoon これまで同じような銀河団の中心部で観測されてきたガスの動きは、せいぜい秒速160キロメートル程度。つまり、ほぼ2倍の速さでガスが乱れているわけで、研究者たちも「これは予想外」と驚いた様子だ。
もっと驚きなのは、ブラックホールのエネルギーがどれだけ周囲のガスに伝わっているかを示す「フィードバック効率」。従来の観測では0.01%未満とされていたのが、今回の測定では少なくとも1%、場合によっては10%に達する可能性があるという。桁が2~4桁も跳ね上がった計算で、まさに「従来の常識を覆す」レベル。
実は、宇宙の大規模構造を再現するシミュレーションの世界では、とっくの昔から「ブラックホールのフィードバック効率は数%程度必要」と仮定されていた。でも、実際に観測でそれを裏付けるデータはなかった。今回の成果は、まさにそのシミュレーションが長年待ち望んでいた「証拠」なのだ。
「COLIBRE」や「IllustrisTNG」といった有名なシミュレーションでも同様の値が使われているが、研究者らは「シミュレーションと観測では定義が違うので、あくまで定性的な比較」と慎重な姿勢も崩さない。
XRISMが搭載する「Resolve」という検出器は、高温ガスから放たれるX線のごくわずかなエネルギーのズレを検出できる、いわば「宇宙の聴診器」。鉄原子の輝線を分析したところ、ガスの速度幅が約300km/sと、ペルセウス座銀河団などと比べて明らかに広がっていた。
さらにNASAのチャンドラX線観測衛星のデータと照合した結果、この鉄の輝線の90%以上はブラックホール本体ではなく、銀河の外側、銀河団の領域から来ていることも確認。ガスの暴れっぷりは本物だ。
ただし、このガスの動きが本当の「乱流」なのか、それとも「バルクフロー(大規模な流れ)」や「速度シア(速度差)」なのかは、まだはっきりしていない。チャンドラの画像には「ガスのスロッシング(揺動)」を示す兆候も見られるが、全体の速度分布からすると、単純なスロッシングだけでは説明が難しいという。
このブラックホールは「電波静か」で、か細い電波ジェットしか持たないくせに、放射のパワーは他の同種のブラックホールより1~5桁も大きい。どうやら、ジェットではなく「風」が主役のようだ。
研究者らは、この風が約30万光年もの範囲に広がる圧力波を発生させている可能性を指摘。もしその衝撃波が実在すれば、フィードバック効率は10%に達する。ただし、その衝撃波そのものはまだ直接観測されていないため、「控えめに見積もっても1%」というのが今回の結論。
それでも、従来の0.01%未満から1%へのジャンプは、宇宙の銀河形成理論にとって大きな意味を持つ。ブラックホールが周囲のガスを加熱し、新たな星の誕生を抑え込むというシナリオが、ついに現実のデータで裏付けられた形だ。
このブラックホールは現在、理論上の最大降着率の30〜60%で物質を食べ続けている。宇宙が最も活発に銀河を形成していた時代には、こんなブラックホールが当たり前のように存在していたと考えられている。つまり、H1821+643は「過去のタイムカプセル」として、宇宙の進化を理解する格好の研究対象になりそうだ。
今後の課題は、他の銀河団でも同様の測定を行い、今回の結果が「例外」なのか「普通」なのかを確かめること。それでも、この一つの銀河団で得られたデータは、宇宙の大規模構造が「必要としていた」フィードバック効率を初めて示したという点で、記念碑的な成果と言える。
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